tete-a-tete

夕凪ショウの同人活動の他、行った場所や観た映画などの記録です。

『小谷元彦展 幽体の知覚』感想

今日はお休みだったので、お出掛けしてきました(・v・)
前から気になっていたカフェに、ちょっと勇気を出して入ってみました。

このカフェは戦後すぐに開校した洋裁学校だったそうで、独特の雰囲気がありました。
スリッパに履き替えて店内に入ると、板張りの床、壁には黒板、席はそれぞれ違った椅子にソファ。扇風機と蚊取り線香が置かれていました。窓ガラスには「應接室」と書かれていたり。
和風とも洋風ともつかない、不思議な空間でした…。

さてそこでお昼を食べてふらふらしていたところで、友人からメール。友人が東京に遊びに行った時に見た展覧会がこのまちに来ているとのこと。お勧めされたのでそのまま足を美術館へ向けました。



前置きが長くなってしまいましたが、『小谷元彦展 幽体の知覚』感想です。

はい、一言で言うと…非常に怖かったです!!
崖に立って生命の危機を感じるとかそういう本能的な怖さではなく、夜中に1人で階段の手すりの錆びた古いアパートの前を通ったり、背中の後ろで洗面所の排水溝が嫌な音を立てたりした時のような、邦画のホラーみたいな、もっと人工的で生理的な恐怖感、とでもいうのでしょうか…。

展覧会場に着いた時、地響きのような低い音と聖堂のコーラスのような声が展示室の方から薄く響いていた時点で、嫌な予感はしていたんだぜ…。しかも会場に足を踏み入れる前には「静謐な展示ですのでお荷物をお預け下さい」と手持ちのアイテムを全部取り上げられるんだ…。( ̄ー ̄;

さて今回の展覧会でまず特徴的だな、と思ったのが、作者の挨拶や作品の解説などのパネルが一切省かれていることでした。
普段 展示を見る際には、まずは解説なしに作品を見てみようかな、とか思うのですが。今回は作品のあまりのインパクトに、むしろタイトルや解説を読んで安心したいとさえ思ってしまいました。

展示室に入ると、生々しさと幾何学的な美しさが同居した、なんだか鋭利で生理的嫌悪感をもよおすような彫刻作品が並んでいます。
例えば茶色のドレスが展示されていて、なんだろうと思って近付いてよく見てみると人の髪で編んだものであったり。
歪な頭部から不揃いな歯が数多く伸びた、ナウシカのオウムさながらの彫刻であったり。

『№44』 映像作品
薄暗い展示スペース内に吊るされた縦長のスクリーン。
真っ白な視界に、赤褐色のシャボン玉がゆっくりと漂ってくる。
生物の細胞というか、血管の中を赤血球とかが流れていってるみたいだなー、と思う私。
そのうちに、シャボン玉が壁にぶつかってふるふるとゆらめく。割れてしまわないかと不安を感じる。やがてシャボン玉の数は増え、時にはお互いにくっついて大きくなりながら次々とはじけ、粘性のある赤褐色の飛沫がゆっくりとスクリーンを横切る。
しばらく見ていると、シャボン玉がはじけた時に何かひとの話し声が聞こえることに気付く。スタジオ立花の「水のコトバ」を思い出す。ただ、英語か日本語かもよく解らない。
さて、映像が終わり、作品目録の解説を読む。
『映像には、小谷自身の血液を含んだシャボン玉が…』
おおう(・ヮ・;)、この言い知れぬ生々しさはそれだったのね、と妙に納得する。

『ターミナル・ドキュメンツ』
黒いカーテンの向こうから漏れてくる音にびくびくしながら、次の展示スペースへ向かう。
真っ暗な部屋の床に、ゆうに直径5m以上はある丸いスクリーンが置かれていて、深紅のどろどろした液体が渦を巻いて流れ込んでいる映像が映し出されている。
どうやらスクリーンの上には浅く水が張られているようで、天井からぽたぽた落とされる水滴の波紋も相まって、余計にリアリティを増している。
壁には少女が本を読んでいる映像が映されているのだが、その内容が聞き取れないので余計に薄気味悪く感じて…いたところで、「スゴゴッ」という音とともにいきなり背後の丸いスクリーンが真っ白に変わる。
…(((((( ;゚Д゚)))))ガクガクブルブル
あの、気を抜いたら悲鳴をあげてしまいそうなんですが…。これなんてホラー映画ですかあああ
真っ白なスクリーンにはやがてまた赤い液体が渦巻き初め、雷鳴のような音とともに黒く濁り…
うん、そろそろ次に行こうか…

さて次は壁の黒い展示室に、太古の深海生物の骨格標本のような彫刻作品が展示されています。博物館みたいな雰囲気。彼ら、妙に薄気味悪い異形をしております。

先に進むと、一転して白く明るい空間。骨よりも比較的柔らかな曲線の多用された彫刻作品。爽やかな風を受けているかのようにたなびいて、これは救いが…?と思ったら、ああ、壁から突き出した無数の腕の皮が垂れているのね。
作者の言葉を借りると、「牛乳をレンジでチンした後にスプーンですくえるあの薄い皮」です。骨の次は皮ですね、わかります(・ω・)ノ

うん、もうそろそろやめてくれぇぇって気分にね、なってきたよね。

インフェルノ
いつだったか確か森美術館で、電話ボックスの中に入って体感する作品があったのを思い出しました。中にはピカピカ光る床とミラーボールがあり、備え付けのヘッドフォンをするとダンスミュージックが流れているというもの。展示室のお兄さんが踊っていいですよーと言ってくれたのものの(中の人はノリノリで踊っていても外から見ると滑稽、って意図の作品だったと思う)さすがにちょっと恥ずかしくて遠慮した。
というのは置いといて、この作品もボックスの中に入って体感するというもの。床と天井は鏡張りで、四方の壁はスクリーンになっている。初めに聞こえた地響きと聖堂のコーラスはこの作品から聞こえていたようだ。
少々びびりながら中に入る。どどどど、という音とともに滝が流れ出す。滝の中に入ったらこんな感じかーとか思ってると、一瞬、滝の水滴がスローモーションになってぞくっとする。滝は流れおちたり遡ったり静止したり、だんだん感覚が麻痺して、四隅にロールシャッハみたいな模様を見いだしたり。同じ滝を題材にしても千住さんとえらい違いね、と思ったり。

一通り見終えてフラフラしながら会場を出る私。
いつもなら展示室に座ってる監視員のお姉さんが羨ましいけど、今回ばかりは毎日あの空間に居ると悪夢にうなされるんじゃないかと思う。

と、作者が展示について語っているビデオが。休憩がてら座って見てみる。
「彫刻が好きなのは、単純にナイフを使うから。彫刻する形は何でもいい、刃物でもって対象に肉薄していく感覚がいい。」
頭蓋骨をぐるぐる回しながら蝋をかけて鍾乳洞のように生成した彫刻については、「頭蓋骨は世界共通の一単位。遠心力といった目に見えないもの(=幽体)を視覚化/知覚化する。蝋という素材は人体で言えば歯茎のような…」


ふむ。そもそも今回の展覧会の小谷元彦氏は彫刻家である。
”木彫で扱う木材はそもそも「木の死体」であり、動物の死体である剥製はそれと同様のことだ”といった言葉に始まり、骨の彫刻は”運動を彫刻の中に取り込もうと試みた”もの、滝の映像も、滝という圧倒的で制御不可能なモンスター性をビデオの使用により”「粘土のように」時間を扱う”ことで彫刻する…
といったように、彫刻とは、生死とはなんぞやといったテーマを追及している模様。

キリストの磔刑とか拷問とか、刃物とか血とか頭蓋骨とか、いかにもおどろおどろしく提示して厨二病か?とか思わないでもないのですが←
それはそうと、単に痛々しいモノを作ってるだけでなく、日本の近代彫刻に疑問を投げかけたり、そもそもちゃんと古典や技術を学んで身に付けた人なんだな、と感じました。
…と思ったら東京藝大出なんですね。さすが。

ビデオには黒縁眼鏡に黒いジャケットの若造りな男性が映っていましたが、この方は歳を重ねれば直接的な表現から遠のくのかどうか気になるところです。



こちらの展覧会、もとは森美術館であったようですね。
http://www.mori.art.museum/contents/phantom_limb/index.html
展示室の広さなどでは劣りますが、こちらでは空いているので1人で満喫できるという利点があります!(`・ω・)ソノブンコワカッタケドネ

帰りに食べたかき氷もあの滝に見えるでござる…うーんうーん(ー″ー;;)。

ともあれ、非常に良い経験になりました!
そこらの遊園地のお化け屋敷よりよほど涼めるので、お勧めでつ(`・ω・)bグッ

それでは長くなってしまいましたがここらで〜ノ