tete-a-tete

夕凪ショウの同人活動の他、行った場所や観た映画などの記録です。

ミーム、めぇめぇ、やぎさんへの手紙

10月4日、不始末さんによる初音ミクオリジナル曲「やぎさんへの手紙」が公開されました。 歌詞にちりばめられた「めぇ」が可愛いです´(ΘYΘ)`
この曲、および「ゆうびんミクさん」の一連の物語とは、もう2年以上の付き合いになります。今となっては記念すべき1枚目の絵を描いたのは2012年10月1日、pixiv投稿は10月4日でした。夕焼けの綺麗だった10月4日は、この子の誕生日にしようと思いました。
2012年の冬コミにて、Vocapedia合同コピー誌に描いた漫画がこちらです↓

ゆうびんミクさんと初めての手紙 by 夕凪ショウ on pixiv

不始末さんも経緯をまとめて下さってました。↓
不始末のブロマガ:コミュニケーションとヤギをめぐる長い旅
私も、長くなりますが書いておこうと思います。

◆まず、漫画の舞台としたのは、2012年の夏に旅行したスイスでした。
氷河を抱く山のふもとに、一本の長い道が走っていて、その途中途中には小さな集落があります。家が十数戸と教会がひとつ。家の窓には花のこぼれるプランターと、赤地に白十字の国旗がたくさん。教会の屋根は玉ねぎ型だったり、三角だったりと様々です。教会を囲むようにお墓があり、街の側にはぶどう畑があります。カツンと晴れた空気の中、冷たい雪解け水が湖に注ぎます。山の斜面は明るい黄緑色で、今にも転げ落ちそうな様子で、おもちゃみたいな納屋と牛の影がぽつぽつぽつ。牛の首に付けられた鈴がガランガランと遠くで音を立てるのが聞こえます。
そんな風景をツアーバスで通り過ぎながら、「昔の郵便屋さんはホルンを吹いて街への到着を知らせました。すると手紙を出したい人や、自分宛ての手紙が届いてないかな?と期待する人が、家から出てきました…」と、ガイドさん。これを聞いて、人々の暮らしが瑞々しく想像できて(ツアー旅行なのでそういうことは少ない)、とても印象に残りました。
この土地で郵便配達員として働くミクを主人公とし、手紙を食べるヤギを登場させたのが、「ゆうびんミクさん」の世界でした。
◆「テガミヤギ」は言葉を消化吸収してその意味を糧にする種のヤギで、手紙をやり取りする習性があります。黒鉛やインクは体毛に蓄積するので、手紙を受け取るばかりで返信しないヤギは黒くなります。「やぎさんゆうびん」の白ヤギさんは紙の白さ、黒ヤギさんはインクの黒さであったということです。
何らかの原因で手紙をやり取りしないと生きていけなくなってしまった、あるいは本来そういう生物であるテガミヤギに、ミクは郵便屋として関わっています。
◆さて、その郵便屋さんが初音ミクである必要ないじゃん、という点についてなのですが、初音ミクと郵便屋さんはすごく似ていると思うのです。それは、コミュニケーションの媒体である(媒体でしかない)という点です。
郵便屋さんはお手紙を運びますが、その封筒を勝手に開けて中身を読んだりはできません。テガミヤギたちの手紙を運びますが、そのコミュニケーションはヤギ間で行われている(らしい)ものであって、ミクは関わっていません。その疎外感が彼女のさみしさです。
私たちは初音ミクを介して心を通わせることができますが、初音ミク自身はコミュニケーションの媒体であって、当事者ではなく、歌う歌詞の意味も理解していない…そういった考えがありました。
◆漫画のオチは、テガミヤギからミクさんへ返信が届き、封筒にはテガミヤギが書いた(?)楽譜が入っていて、そこにミクが歌詞を描き添えていたところ、同居しているルカさんが部屋にやってきたので、ミクは慌てて本の中に手紙を隠す→その本はコピー本で、読者の手元に手紙が現れる というものでした(伝われ)
不始末さんにお願いして楽譜を手書きしてもらい(DTMerはあまり楽譜を書かない)、それをスキャンして送ってもらって、私が歌詞を描き添えました。(作詞は不始末さんです。)漫画ではミクのセリフは私の手書き文字なので、ミクの手書き文字も私の手書き文字ということです。
テガミヤギたちが楽譜を書くのかは謎で、そこついても議論があったのですが(笑)(楽譜について - Togetterまとめ)、作中でミクが持っている楽譜をヤギが食べるシーンがあるので、それを消化してまた出したもの、という理由を付けています。ヤギによる独自の記号で書かれてるとか、噛んだ跡や落書きを加えるといった案もありました。
『作中で登場した手紙がコピー本に挟まっている』という演出は、わざわざ紙の本を出すのだから、と考えたものでした。luminous flux のジャケットデザインをさせていただいたときも、データをCDに焼くのだから…と、ディスクを湖に見立てる演出をしました。アイデアの元は、どちらも、仕掛け絵本グリーティングカードのそれです。ただ私は絵を描いただけで、実際に印刷・製本等の行程は他の方にして頂いたので、ほんとにありがたいな、と思います。手紙を付けるなんてのは手作りの同人誌でないと無理ですね…。
初音ミクは媒体でしかない、という考えがありましたので、ミクがヤギに手紙を出す=コミュニケーションに参加する、ヤギから返事が来る=コミュニケーションに成功する、というのを漫画のゴールとしていました。
◆ここからは漫画の外の話で、付録である楽譜を手にした読者さんが、あの歌を歌ったり演奏したりしてくださった場合、さらに伝達が成功することになるのでは、と。
実際、あのコピー本を出した後、楽譜を見た方がアレンジした楽曲データを送って下さったり、感想のお手紙を送って下さったり、知人・友人に楽器で弾いてもらったりして、このメロディはどんどん思い出のあるものになっていきました。


◆そんなこんなで、今回、とうとう動画が公開され、感無量でした。「絵と曲が合ってる」という感想は特に嬉しかったです。
◆もう少し追記すると、不始末さんもブログに書かれていましたが、”コミュニケーション不能な他者”としてヤギを登場させた、という側面があります。
「世界が決して特権的な存在としてのプレイヤーのために準備されているのではなく、自らが歩み寄らなければ見えない世界がある…決して安易に立ち入り、肩代わりしたりわかった気になったりすることのできない、「他人の人生」というものの陰影。あるいは…コミュニケーション不能な他者の存在。」(『moon』再論 〜いつか、ゲームに「ラブ」がやどる日まで〜 より引用)
コミュニケーションは絶対的に不可能であって、でもそれでも、もしかして通じてるかも?と思える瞬間がある。そういうきらめきを大切にしたいなと思っています。
◆ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
「やぎさんへの手紙」が愛されることを祈っています。

余談です。細々としたネタがまだまだありました。
再生紙(音楽が再生される紙)
・羊皮紙を用意しよう
・テガミヤギさんの歯って植字?レーザープリンタ
・電子やぎさん、お手紙にハミング符号http://t.co/x0iqqEY8)を付加して伝達の誤りを防ぐ
・ヤギさんの食物繊維=文字の線 繊維 文字の毛糸
・テガミヤギさんは、文章中の辛い(からい)と辛い(つらい)の違いが分からない。紙と髪を混同してミクの草色の髪を食べようとする。文面は文字で読んでるけど、眼では音と意味で見てるなら、外国へ行ったら空耳で物を見間違えそう。
・あれ… テガミヤギって人間のこと…?
・「郵便」は前島密氏による造語で、一般的な言葉というより日本郵便のものかなと思い、「ゆうびん」はひらがな表記としています。会社名のようなものを、創作キャラの名前として使うのは適切ではないかなと…。でも他にわかりやすい言葉が見当たらなかったので、ミクの派生の一つを示す名前としてお借りしています。
・「ミスユー 夢で呼ぶ声が遠くなっても」で日が暮れる場面、ここはぜひ動画で見ていただきたいです。(なので、pixivに夕空の差分は載せていないのですが、もし画像が欲しいという方いらっしゃいましたら、個人的に声をかけていただければデータをお渡しします)

追記:DS_8さんによる「やぎさんへの手紙」アレンジバージョン公開されてました! 漫画の、夢の中のシーンみたいで好きです。ありがとうございます。
SoundCloud: ds_8 Yagisanhenotegami